日々アウトプット

アウトプットの習慣づけを目指す30代OLブログ

おやすみ、東京

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amazon.co.jpより)

吉田篤弘さんの小説はどれも読んだ後にほっこり、じんわりあたたかくなります。

デザイナーさんとしてのこだわりも感じ、どの本の装丁もとても凝っていて、内容と上手にリンクしており、書籍全体で素敵な雰囲気がにじみでているところも魅力的です。読んで楽しく、眺めて楽しい2度おいしく感じます。

 

「おやすみ、東京」の舞台は、タイトル通り、深夜の東京。

主に深夜に働く人の人間模様が14話で紡がれています。

 

最近は10:30に就寝する身としては、深夜に外にいることなんて考えられないのですが、自分が眠った後の未知の世界を覗き見するようなワクワク感がありました。

登場人物がけっこう多いので、途中で本を行ったり来たりしてしまいましたが、後半に向けて少しずつ繋がっていく感じが気持ち良いです。

中でも使い物にならないものを新しい観点で販売しているイバラギの持論が印象的でした。

人間がつくったものは、壊れることで別のものに生まれ変わる—――。

 

何らかの目的にしたがってつくられたもの—――とりわけ人間がつくる「道具」と呼ばれるものはあらかたそうなのだが—――そうしたものは壊れたときに、ようやく人間に従事することから解放されて、はじめて自由になる。

 

自由になって、役割から解放された道具の本来の名前を考えること。それが自分の仕事になると彼は信じてきた。

人間から解放されてありのままに新たな一歩を踏み始めるモノたちの出発点。モノの話をしていますが、人間が作り上げた社会や価値観とそれに囚われる人間の構図そのもののような気がして、イバラキの持論は奥深いなと思いました。そんなイバラキの淡い恋心ははかなく終わってしまいましたが、コメディタッチでついつい笑ってしまいました。

ミツキの指輪が最後にはずれたのは、これまで決めつけたり、変わろうとしなかったりするミツキの心境の変化を表しているように思いました。ずっと取りたいのに取れないと思っていた指輪でしたが、実は自分の思い込みだったのかもしれません。彼氏の浩一に対して不満を持っていたけれど、最後は浩一との関係を前向きにとらえ始めるようになり、自分で課していた呪縛から解けたのかなと思います。イバラキの持論と通じるものがありました。最初は指輪が抜けない(→結婚を外的状況のせいにする)で困っていたのに、浩一との今後を受け容れられるようになると指輪が抜けてしまい、自分で慌てて指輪を入れなおします(→自分の意志で結婚を決意する)という変化のように思いました。

夜寝る前に少しずつ、少しずつ読んでいたのですが、ついに読み終わりました。開くたびに宝箱を開けるような、幸せな高揚感をもらえる1冊でした。